日本経済新聞 2015年(平成27年)11月12日(木曜日)
中外製薬やエーザイなど製薬各社が、がん免疫療法による新薬の開発に乗り出している。
中外が肺がん治療薬の製造販売を来年にも厚生労働省に申請するほか、エーザイも米国で新薬の臨床試験(治験)を始めた。
世界初のがん免疫療法薬が昨年に売り出され、効果が高い画期的な新薬として需要が急拡大していることから新規参入が相次いでいる。
中堅製薬の小野薬品工業と米ブリストル・マイヤーズスクイブはがん免疫療法薬「オプジーボ」を日本で昨年発売した。
人体に備わる免疫力を活性化し、がん細胞を攻撃する。ノーベル賞の有力候補とされる京都大学の本庶佑名誉教授らが発見した仕組みを活用した。
死亡率が高い「メラノーマ」という皮膚がんで、がん細胞が消失する例がみられるなど極めて高い効果を示した。
一般の細胞も攻撃することもある既存の抗がん剤より副作用が少ないとされる。
小野薬品に続こうと製薬大手が新薬開発を強化している。スイスのロシュ傘下の中外は、がん細胞側の働きを抑え込む新薬の開発を目指す。
がん細胞表面にある物質と免疫細胞「T細胞」が結び付かないようにして免疫力が落ちないようにする。
肺がん治療薬のほか、ぼうこうがん、腎臓がんで、最終段階の治験を進めている。
エーザイは白血球の一種、マクロファージに焦点を当てた薬を開発している。マクロファージも体内に入った異物を攻撃する免疫機構の一部。
がん細胞は特殊な物質を出しマクロファージの働きを変え、がん細胞でなく、免疫細胞を攻撃するようにする。
同社の新薬はマクロファージの働きが変わるのを防ぐ。7月から米国で治験を始めた。
武田薬品工業も山中伸弥教授が率いる京都大学iPS細胞研究所と共同で、がん免疫療法の研究を進める予定だ。
欧米でも開発が活発になっている。米国では米メルクが新薬「キートルーダ」を発売。ブリストルも新薬を売り出した。
調査会社の英エバリュエートファーマによると、オプジーボは単独の薬で2020年の予想売上高が83億ドル(約1兆200億円)に達し、世界3位になる見込みだ。
世界の抗がん剤市場は2014年に792億ドル。免疫療法の治療薬などがけん引役となり、20年には1530億ドルになるとの試算がある。
従来の化学合成の薬では画期的な新薬が生み出しにくくなっているだけに今後、同療法での新薬開発競争が激しくなりそうだ。
▼がん免疫療法薬 もともと人体に備わっている免疫機能を活用し、がんなどを治療する仕組みの薬。がん細胞には免疫細胞の働きを抑え、
がん細胞を攻撃しないようにして成長する特徴がある。がん細胞が持つ特殊な免疫抑制の仕組みを邪魔するなどして免疫力を復活させ、
がんの退治を狙う。従来の抗がん剤よりも副作用が少なくて済むと期待されている。